第3話

 『第3話』 作:-IX-さん



「いやぁ、遅くなって申し訳ないです。鍵類を一つに纏めていたせいで探すのに手間取ってしまいましてねぇ」

 そう言いながら戻ってきた顔役の男は、苦笑しながらそのまま鍵を扉へと差し込んだ。

 ――まずい。
 何がまずいって、この状況で扉に鍵がかかってなく、なおかつ中に死体があるとなればまず真っ先に疑われるのは俺だろう。
 言い逃れはできない。何よりもこの場でドアを激しく叩き、マエルの名を叫んでいた俺を見ていた証人は周囲にいくらでもいる・・・・・・・・・・。


――ドクン、ドクンと心臓の音がやけに大きく聞こえる――



 どうする? この顔役の男を口封じすればこの場ですぐにばれる恐れはなくなるだろう。
 だが、それは俺が犯人だと言い逃れできない状況を自ら招くだけになる。状況を悪化させるだけの提案は却下だ。


――視界が狭まり、やけに呼吸が荒くなってくる――



 逃げる――これも却下。
 いっそ俺も今はじめてみたとばかりに驚く?――鍵が開いている時点で疑わしいのは俺だと断定されるだろう。
 考えろ、考えろ、考えろ! これはもはや笑い話で済ませられる次元の話ではない。
 平穏生きるか闘争死ぬか、二つに一つだ。
 ならば、俺は生き残る戦おう。この程度を切り抜けられなくて何が冒険者だ。上等……この程度の苦難、丸腰のソロでアンテクラ相手に喧嘩を吹っかけるよりもはるかにぬるい!



――三千世界の覇者マ■リエ■は狂喜した――




――それでこそ、我が敵であると――





「あぁ、顔役さん?」

 勤めて平穏に、焦りも憤りも顔に出さないように声をかける。
 ここから先は絹糸のタイトロープを渡るようなもの。一つのミスさえ許されない。

「はい?」
「今待っているときに町内会の方が見えられまして、なにやら顔役さんを探していたようですよ?」
「ありゃ、またミドスのじい様が何かしでかしたのかね」

 ヒット! 重要な役職にいる人ならなにかしら町会の厄介ごとを抱えてると思ったが……目論見は見事当たったようだ。
 絹糸が凧糸程度にはなったが、まだ予断は許されない。

「かなり焦っていたようですけれど……何かあったんでしょうかね?」
「あぁ、ミドスのじい様ぁ無類の酒好きでねぇ、昼間っから飲んでぐでんぐでんになることがよくあるんですよ」

 鍵を扉から離し、困り顔で頭を掻く。

「なるほど、それは大変だ」

 それを、怪しまれない程度に目で追う。

「すみません、すぐ戻ってきますんでもうしばらく待っててもらえますか?」
「良いですよ、この貸しはマエルさんにつけておきますから」
「はは、そりゃいい。これに懲りてマエルさんももう少し真面目に仕事に励んでくれれば良いものですなぁ」

 では、と軽く会釈して背を向ける。
 鍵は手の中からポケットの中へと…

――瞬

 ……成功。
 顔役の人の視線が俺から外れるのと同時に腰の短剣へと手を伸ばし、鍵が入れられたポケットを気付かれないよう慎重に、だが確実に浅く切り鍵を盗み取った。
 鍵は俺の手の中に、顔役は足早に雑踏の中へと消えていった。



 ……あぁ、心臓に悪ぃ。できればもう二度とやりたくねぇな。

 さて、それじゃ二回目のご対面だ。故意か偶然かは知らないが、この俺にマエル殺しの罪をかぶせようとした奴は絶対に逃さねぇぞ。

 そして俺は、血濡れの部屋へと足を踏み出していった……








* * To be continued * *


© Rakuten Group, Inc.